「ご冗談でしょう、ファインマンさん」上巻
読書感想文です。
ノーベル賞を取った学者のエッセイ集です。
ファインマンさんは好感が持てるお茶目な人物で好奇心が強く、おそらくとても頭のいい人です。親近感が沸く部分もあります。でも基本的に理系の人の文章なのでたまにそういう話が出て来ると内容に関してはちんぷんかんぷんです(私は文系人間だからね)。
特に印象に残った部分を抜き出してみます。
「ある芸術家が雑誌の表紙に自動車の絵を使うことを考え、ブラスチックで念入りに自動車の車輪を作った。このときあろうことかわがセールスマンが、メッキならなんでもござれと吹いたものだから、その芸術家は、それならこの車輪のハブを銀ピカにメッキしようと思いついたわけだ。ところがその車輪は、まだ僕たちがメッキの仕方をよく知らない新しいプラスチックでできていた。本当のところ、わがセールスマンは僕らがそもそも何をメッキできるのかすら、さっぱりわかっていなかったから、それこそ何でもござれの安うけあいばかりしていたのだ。」P79より
プラスチックにメッキ加工をする会社に勤めていたときの話です。
なぜ印象に残ったのかというと、自社の仕事内容を把握していない営業のせいで困る現場、というのに涙したから(ファインマンさんは基本的にはそういう大変な苦労話も悲壮な様子では語らないけどね)。
「このグループはそれまで九ヶ月にたった三つしか問題は解かなかったが、優秀な連中だった。ただここに一つ根本的な問題があった。それはこのグループのメンバーが、何も知らされてなかったことだ。この連中は陸軍が全国の高校から、工学関係の能力のある頭の良い若者たちをよりぬいて組織した、特別工学分遣隊というものだった。ところがこうして彼らをロスアラモスに送りこみ、バラック式営舎におしこんで働かせようというのに、陸軍はその仕事の目的については何ひとつきかせていなかったのだ。
〜中略〜
当然のことながら仕事は一向にはかどらない。そこで僕はまずこの若者たちにその仕事の意味を説明してやるべきだと主張した。
その結果、オッペンハイマーがじきじきに保安係に談判に行き、やっとのことで許可がおりた。
〜中略〜
さて話を聞き終わった若者たちは、すっかり興奮してしまった。
〜中略〜
結果は見ちがえるばかりの変わりようだった! 彼らは自発的に能率をもっと向上させる方法まで発明しはじめた。
〜中略〜
僕の助手たちはこうしてめざましい働きをしたわけだが、この成果を生むにはただ単にその仕事の意味を教えてやるだけでよかったのだ。そして今まで三つの問題を解くのに九ヶ月かかっていたのが、今度は三ヶ月に九つの問題を解いてしまった。ほとんど10倍に近い能率だ。」P216より
長い所なのでかなり抜き書きしましたが。
なんかこう、人を働かせるときに必要な気遣いとか、心理とか、そういうのを含んでいるエピソードだなあと思うのです。ためになる話ではないでしょうか。
実際何のためにやってるのだかわからない仕事に対して身を入れて働くのは難しいのではないかと思います。
ところでそうやって一生懸命働いて何を開発していたのかというと、広島や長崎に落とした核爆弾なのです。
こういう記述があります。
「それから間もなく僕は文明の社会に帰って、コーネル大学で教鞭をとったが、その第一印象たるやすこぶる奇妙だった。今はもうどうしてだか思い出せないが、そのときはとにかく非常に強烈な印象だった。例えばニューヨークのレストランに腰を下した僕は、窓の外のビルを眺め、そして考えはじめるのだ。広島に落ちた爆弾の被害範囲は、直径何マイルだったか……、ここから三四番街まで、どれがけの距離があるのか? これだけの建物が皆吹っとんだんだ……というようなことを。」P233より
建築中の建物などがあると「爆弾が落ちれば全て無駄になるのに」と考えるようになってしまったファインマンさんです。
彼は仕事で核爆弾の開発に携わっただけで、銃職人や刀鍛冶が人殺しではないように、彼が広島や長崎の人たちを大量殺戮したわけではありません。勿論。しかし、おそらくこのことに関しては本に記述していた以上に思う所があったのだと思います。でもそれはこの本の主題とは少し違うものでもあります。かといってそのことに関して全く触れないというのも不自然だと思ったのでしょう。その結果がこの辺りのちょっとした記述なのだろうなあと思ったのでした。
彼は奥さんの一人が亡くなった時のエピソードもさらりと書いています。でもそれは伴侶を亡くした時に悲しくなかったという意味ではないし、ただ悲しいエピソードはこの本の主題には合わないのです。
基本的には物理学を専攻した人間の本人および周辺の青春群像という内容なので、思わず笑ってしまうエピソードの方が多いです。
あとファインマンさんは今の時代に生きていたら間違いなく趣味でハッカーになっていたに違いないと思うのでした。
下巻はただ今読み中です。
