小説「指輪物語」がビーター・ジャクソン監督で映画化され「ロード・オブ・ザ・リング」(以下LOTR)というタイトルで日本でも公開されたのは、2002年3月のこと。当時字幕の翻訳に問題があるのでは?と観客側が指摘し、配給会社や監督に直訴するという出来事がありました。今回はなぜこんなことが起きたのかを個人的に推測してみます。

ちなみに具体的にどんなことがあったかは字幕改善連絡室字幕改善連絡室さん野良犬の塒さんなんかに詳しく載ってますので、ご覧下さい。

私は2003年秋ごろ、それまで「いつか読もう」と思って買っておいたけどちっとも読んでなかった指輪の原作小説文庫本の1巻を突然読み始めたんですが、たじま家の家訓は「先に原作を読め」なので当然LOTRの映画も見ていなかったのです。ネタバレが嫌いなのでいつか見るつもりだったLOTRの映画に関する情報も意識的にシャットアウトしてました。だから一連の騒動をリアルタイムでは経験していないのです。蚊帳の外というやつですね。
2003の冬頃(そう、丁度二つの塔のSEEが出た頃)に映画をレンタルで追いかけたときには、既に字幕騒動は沈静化してました(まあまだ王の帰還公開が控えてたので、様子見の状態ではありましたが)。
後になってから上記のサイトさんのログなどで色々なことがあったのを知ったのです。その頃には週刊誌にもこの件に関する記事が載るようになってたかな。

なお、私は映画業界の関係者ではなく、また一連の出来事で具体的に取り上げられるいかなる個人・団体ともプライベート・ビジネスを問わず付き合いがありません。ですのでこの日記の内容には「私しか知り得ない業界の裏事情」的なものは一切なく、そんなようなことが書いてあったとしてもそれらは全て「開示されていて誰でも知りうる情報を元に推測した」内容にすぎないことを先にお断りしておきます。

さて、一連の字幕騒動で、最初にひっかかるところは、くだんの字幕翻訳者に対する配給会社側の力のなさである。これは、くだんの字幕翻訳者が業界内での「権威」になっているということを表わしているのだと思う。具体的にどれくらいの力を持った権威なのかは業界外の私には分からないが、これだけ翻訳内容に問題があることを指摘されながらも最終的に(監修は付けられても)この仕事から降ろすことはできなかったことからも、その力はかなり強いことが推察される。

ではなぜそんなに強い力を持つに至ったのかを考えてみよう。
そもそも彼女が権威を持つことになったことの一つに、「有名である」ことが挙げられると思う。
彼女の名前は映画を見る人なら誰でも見たことがあると思う。積極的に思い出したり話題にすることはなくても、他の人に名前を挙げられたらそれが映画字幕翻訳者の名前だと分かる程度に知ってる人は、大勢いると思う。
なぜそうなったのかと言えばそれは、一時期映画の字幕翻訳の仕事のほとんどを彼女がやっていたからだ。仕事量の多さゆえに彼女は映画字幕翻訳の代名詞的存在となり、権威を持つに至った。
では彼女以外には字幕翻訳者はいないのだろうか? いないとしたら何故だろうか?
私はこう考える。
おそらく字幕翻訳の仕事は条件が過酷なのだ。
納期が短く、ギャラは少ない。
ギャラが少なくても好きな映画の仕事に関われればという程度で続けるには、映画が好きな人にとっては辛い一方の納期なのではないだろうか。つまり、ちゃんとした仕事をしようと思えばそれなりに下調べなんかも必要になるが、そういう時間は一切取れないくらい納期が短いのだ。だから間に合わせようと思えば「いい加減な」仕事になる。そういう仕事に納得がいかなければ、仕事を辞めるしかない。
つまり、「ギャラが少なくてもいい」「納期が短くてもいい(その結果翻訳の仕事としては問題が残る出来になってしまったとしても、そのこと自体を気にしない)」という二つの条件を持ち、かつ、仕事がそれなりに早い人が、字幕翻訳者として生き残ったのではないかと思うのだ。

発注側としては当然、お金は少ない方がいい。ダンピングの結果、仕事に問題がある翻訳者しか残らなかったとしても、経費が節約出来るからいいやと考えたのだろう。そしてその少ないギャラを埋め合わすせめてもの行為として「映画の最後に字幕翻訳者としてクレジットを入れる」ということがあったのだと思う。
ギャラの少なさの埋め合わせとしてした行為が、字幕翻訳者の名前を広く知らしめた。字幕翻訳者はお金は得られなかったかもしれないけど映画好きの人々の間に広く名前を知られることとなった。そしてその結果として彼女はめでたく「権威」となったのだ。
字幕に問題があることを客側から糾弾されても、配給会社がその仕事を降ろさせることができない程の。

上記の推測は、大半が妄想だが、それなりの根拠はある。字幕翻訳が短納期薄給であることはどこかでくだんの字幕翻訳者自身が言っていたし、くだんの字幕翻訳者が「翻訳にあたって下調べは一切しない」というのも、本人がどこかで言っていたことだ。
くだんの字幕翻訳者が、何故、あんなに低いクオリティの仕事(なにせ北極「大陸」だ)を全く気に病むことなくそれより納期と仕事をこなすことのみに専念して仕事が出来たのかは、私には分からない。彼女がそういう性格の人だったのだということくらいしか推測もできない。しかしいずれにせよ彼女はそれで競争に打ち勝ち業界で生き残り、配給会社は経費を節減出来たのだ。

過度のお金の節約は思わぬ副産物を産む場合もあるんだよー、という感じでうまくまとめておこうか。

さて上記の教訓を経て今後我々にできることは…
「翻訳者にはそれなりの時間とギャラを与え、クオリティの高い仕事をさせてください」
と客の立場として訴えていくこと。
もしかしたらそのために映画の料金が上がるかもしれない。
それでもいいと思える人は、字幕翻訳の質向上のための運動に身を投じるのがいいだろう。

私もスタトレファンとしては翻訳の質は気になる所です。マジでマジで。

2007年03月18日

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